分子・錯体・クラスターイオンの
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(2) 食塩類ナノ結晶クラスターイオンの幾何構造に関する研究
フッ化ナトリウム(NaF)などのイオン結晶のクラスターは面心立方格子の構造を保ち、直方体構造で安定と
なることが知られています。そのためにこれらのクラスターはナノ結晶と呼ばれ、個々の粒子はNa+やF-などの
イオンとして存在します。またクラスターイオンでは通常片方のイオンが多い化学組成となります。例えば、
一価正イオンでこれらの条件を満たすのはNa14F13+です。Na14F13+は
3×3×3の立方体構造をとります。我々は食塩などの溶解・潮解の初期過程がどのように起こるのかを調べるために、
ナノ結晶イオンの水分子との反応性を研究しています。その初期段階として、NanFn-1+の幾何構造について
イオン移動度質量分析法を用いて調べました。その結果、ほとんどのサイズでは直方体構造を維持した構造をとるのに対し、
特定のサイズNa7F6+、Na10F9+で格子構造にNa+を一つ内包
した特異的にコンパクトな構造を持つことが分かりました。この特異的な構造を持つNa7F6+、
Na10F9+では、立方体構造とは異なった反応性が期待されます。 (図の説明)上;NanFn-1+ (n = 14, 23, 38)の構造。
結晶を切り出した構造を形成することで安定に存在する。下;NanFn-1+ (n = 5-14)の衝突断面積の比較図。
青い丸は実験値、白抜きは理論値を表しており、白い丸は立方体構造を維持した構造、白い菱形は特異的にコンパクトな構造の理論断面積である。
この結果から、n = 7, 10において、格子構造にNa+を一つ内包した特異的にコンパクトな構造を観測していることが明らかとなった。 |
(3) アンモニア1分子による長距離プロトン移動の研究ベンゾカイン分子(p-NH2C6H4COOC2H5)は、アミノ基の窒素原子かカルボニル基の酸素原子のいずれかにプロトンが付加することで2種類のプロトマー(N-, O-プロトマー)を生成します。 本研究では、各プロトマーに対してイオン移動度質量分析を用いたNH3との衝突実験と、量子化学計算による反応経路探索を行い、分子内プロトン移動について研究しました。 イオン移動度質量分析の結果から、NH3によってプロトン付加ベンゾカインのN-プロトマーがO-プロトマーに異性化することが観測されました。また、計算によりN-プロトマーからNH3がH+を引き抜き、NH4+がベンゼン環上を横断する遷移状態を経由して、酸素原子へH+を渡すことでO-プロトマーが生成するという反応経路が明らかになりました。 |
(4) 分子錯体イオンの光解離過程の研究分子やイオンに光を照射してエネルギーの高い状態へ励起すると、分子の結合が切れる光解離反応が起きます。我々のグループでは反射型飛行時間質量分析計と画像観測法を組み合わせた独自の装置を用いて、光解離生成物の空間分布を投影した画像を測定し、分子錯体イオンの光解離過程を明らかにしてきました。画像観測法により得られる画像からは光解離過程を反映した情報を得ることができ、画像の大きさは解離生成物の反跳速度に対応し、画像の空間分布は解離に関与する電子状態の性質や解離の時間スケールを反映しています。当研究室では、最近(CO2)2+の可視光解離過程((CO2)2+ + hν → CO2+ + CO2)を画像観測法により明らかにしました。観測画像には、反跳速度の大きい成分と小さい成分が見られ、それぞれ異なる解離過程を経てCO2+が生成していることを明らかにしました。 (図の説明) (左)画像観測法の模式図。親イオンは解離レーザーにより光解離される。光解離生成物は3次元に広がり、その空間分布はカメラによって記録され、数学的解析を経て3次元分布の断層像を得る。(右)(CO2)2+の可視光解離により生成したCO2+の画像。
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